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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
その二
その二
電話口の話は三十分もかかったけれども、それでも漸く須磨の方は明日にすると云うことになって、一層浮かぬ顔つきをしながら、彼女が夫と珍しく連れ立って出たのは、もう二時半を過ぎた頃だった。
たまに日曜の折などに、小学校の四年へ行っている弘を中に挾みながら、親子三人で出かけることはないでもないが、それは近頃、うすうす父と母との間に何事かが醸されつつあるのを感づいたらしい子供の恐怖を取り除けるためで、今日のように夫婦が二人で出歩くことはほんとうにもう幾月ぶりか分らなかった。弘が学校から帰って来て、父と母とが手を携えて出たことを聞いたら、自分が置いて行かれたのを淋しがるよりも、実はどんなに喜ぶであろう。―――しかし要は、それが子供にいい事だか悪い事だか判断に迷った。ぜんたい「子供々々」と云うが、既に十歳以上になれば、気の廻り方は格別大人と変ったことはないのである。彼は美佐子が、「外の者は気が附かないのに、弘は知っているらしいんですよ、とても敏感なんですから」と云ったりするのを、「そんなことは子供としては当り前だよ。それを感心するなんかは親馬鹿と云うもんだ」