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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
人間はあきらめと云うことが肝心だから。………」
「有りがとう、ほんとうに親切に云って下すって有りがとう。だけどもあたしには一人しかない弟なんです。………それは誰だって一度は死にます。………どうせ死ぬにきまっています。………それは分っていますけれども、………」
「そうだとも。………ほんとうにそうだとも。………そう思ってあきらめるより仕方がないんだ。………」
歳を取って誰にも相手にされなくなった宿場の茶屋の芸者なぞで、馴染みでもない客をつかまえてくどくどと身の上の不幸を訴え、安価な感傷に陶酔したがるようなのがある。ここのかみさんのもつまりはそれで、悲しいのには違いなかろうが、人からやさしく云われたさに思わせぶりなポーズを取ったり、芝居じみたセリフを使ったりしているので、平素のうそをつく癖がこう云う時にもその感慨を誇張させずには措かないのであろう。しかしそれにも拘わらず、この象のように大柄な外国の老婦人の歎きにはなんだか心が動かされる。田舎芸者の安っぽい涙と同じものでありながら、愚かにもその感傷に引き込まれて自分までが眼がしらのうるむような感じになる。
「済みません、ほんとうに、………ひとりで泣いていればいいのに、あなたまで悲しくさせてしまって。