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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「ええ、分ってます。私が本人にそう云います。いやだと云やあそれまでだけれども、ここの所は年寄の顔を立ててお貰い申したいね」
要がもじもじしているひまに老人は手を鳴らしてお久を呼んだ。
「あのうな、南禅寺へ電話をかけておくれでないか、―――二人で行くから、静かな座敷を取っておいてくれるように」
「お二人さんでおいきやすの?」
「折角腕によりをかけたんだろうから、お客を残らず浚って行っちゃあ気の毒だと思ってな」
「そしたら残っておいやすお方が気の毒やおへんか、いっそのことみんなでおいきやすな」
「御馳走は何が出来るんだい?」
「なにもおへんえ」
「甘子はどうした?」
「空揚げにしょう思てますけど、………」
「それから?」
「若鮎の塩焼」
「それから?」
「牛蒡のしらあえ」
「まあ、要さん、肴が悪いが、ゆっくり飲んでいて貰いましょう」
「貧乏鬮お引きやしたなあ」
「なあに、板前が瓢亭以上ですから、たんと御馳走になりますよ」
「じゃあ、おい、着物を出しといとくれ」
そう云って老人は二階へ上った。
どう説きつけられたのか、「年寄りの気にさからっては無事にまとまりのつくべきものも壊れてしまうから」