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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页

青空文庫

「なあに、いつでもこんなもん、………これで今日らは来ている方です。ぜんたいこの小屋じゃあ広過ぎるんで、先の文楽座ぐらいの方が、小ぢんまりしていいんだけれど、………」

「あれは再築を許可されないらしいですね、新聞で見ますと」

「それより何より、この客足じゃあ引き合わないから松竹が金を出しゃあしない。こんな物こそむずかしく云うと大阪の郷土芸術なんだから、誰か篤志家が出て来なけりゃあならないんだが」

「どう、お父さんがお出しになったら?」

と、横あいから美佐子が交ぜっ返した。老人は真顔で受けながら、

「私は大阪人じゃあないから、………これはやっぱり大阪人の義務だと思うよ」

「でも大阪の芸術に感心していらっしゃるんじゃないの? まあ大阪に降参しちゃったようなもんだわ」

「お前はそうすると西洋音楽に降参の口かね?」

「そうとも限らないんだけれど、あたし義太夫と云うものはイヤなの、騒々しくって。―――」

「騒々しいと云やあこの間或る所で聴いたんだが、あのジャズ・バンドと云うものは、ありゃあ何だい? まるで西洋の馬鹿囃しだが、あんなものが流行るなんて、あれなら昔から日本にもある。