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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「娼婦型は案外本人が平気なだけに、一層哀れなところもある。立派なところへ縁づいてでもくれるんならいいが、又のこのこと花柳界へ戻って行かれちゃ、それだけ此方も世間が狭くなるからな。僕はそんなことは超越してるが、そう云う風に考えたら貞女も淫婦も悲しくないなんて女はないさ」
ひとしきり孰方も黙り込んで鍋の物を突ッついていた。酒は二人で二本と飲んではいなかったが、その浅い酔いが却っていつまでも顔に火照って、へんに春らしい鈍重な気分だった。
「そろそろ飯にしようじゃないか」
「うむ」
要はむッつりしてベルを押した。
「一体しかし、―――」
と、高夏が云った。
「―――近代の女はみんないくらかずつ娼婦型になりつつあるんじゃないのかな。美佐子さんなんぞも全然母婦型とは云いにくいな」
「あれは元来は母婦型なんだよ、母婦型の魂を娼婦型の化粧で包んでいるんだ」
「そうかも知れない。―――一つにはたしかに化粧のせいだ。この頃の女の顔の作りは多少ともアメリカの映画女優の影響を受けているんだから、どうしたって娼婦型になる。上海なんぞでもやっぱりそうだが」
「それに美佐子のは、僕がなるべく娼婦型にさせるように仕向けた傾きもないことはないんだ」