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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页

青空文庫

その六

………

「実際あれがほんとうの娼婦型だったら、僕には文句はないんだがな」

「どうだか、それもアテにはならんな。芳子のような真似をされたら君だって我慢が出来やしないぜ」

「そりゃあ、そう云っちゃあ悪いが、ほんとうに商売をしたことのある女はいかんな。それに僕は芸者タイプは好かないんだ。ハイカラな、智的な娼婦型がいいんだ」

「それにしたって、女房になってから娼婦的行為を実行されたら困るじゃないか」

「智的な奴なら、そこは自制力を持ってるだろう」

「君の云うことはどこまでも勝手だよ。そんな虫のいい注文に篏まるような女があるもんか。―――フェミニストと云う者は結局独身で通すより外仕方がないんだ、どんな女を持ったところで気に入る筈はないんだから」

「僕も実際結婚には懲りたよ。今度別れたらまあ当分は、―――或は一生貰わないでしまうかも知れない」

「そう云いながら、又貰っては失敗するのがフェミニストでもあるんだがね」

二人の会話は、仲居が給仕に這入って来たのでそれきり途切れた。

その六

朝も十時近くになって布団の中で眼を開いた美佐子は、庭の方で子供と犬とが戯れている声を、いつになくのんびりとした心持で聞いていた。