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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「でもあたしより太いんだわ。長くってきゃしゃだもんだから、細いように見えるけれど」
「や、僕と同じだ」
と、高夏が云った。
「カラーだったら十四半だな」
「じゃ、高夏さんに会いたくなったらこの犬の喉を撫でたらいいのね」
「小父さん、小父さん」
弘がわざとそう呼びながら、もう一度犬の傍にしゃがんだ。
「あはははは、『リンディー』を止めて『小父さん』にするか。なあ、弘」
「そうしましょうよ、お父さん。―――小父さん小父さん!」
「高夏さん、この犬はあたしの所より、何処か外へ持って行ったら喜ぶ人がありそうだわね」
「なぜ?」
「お分りにならない? あたしちゃあんと知っているのよ。きっとこの喉を撫でてばっかりいる人がありはしなくって?」
「おい、おい、間違いじゃあないのかい、僕の所へ持って来たのは?」
「どうも君たちは怪しからん。子供の前でそう云うことを云うもんじゃないよ。だから子供が生意気になって仕様がない」
「あ、そう云えばお父さん、昨日神戸から連れて来る時に、この犬を見ておかしなことを云った人があるんですよ」
と、弘が話の風向きを変えた。
「へえ、何だって?」
「じいやと二人で海岸通りを歩いていたら、酔っ払いのような人が珍しさうに附いて来て、なんや、けったいな犬やなあ、鱧みたいな犬やなあって、―――」