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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
自分に分らないことを約束したって無意味だし、うそをつくのは不愉快だからって云うんですの」
「しかしそう云うもんじゃないがな。先のことなんか考えないで、一途に『飽きない』と云い切れるだけの真剣さがなけりゃ、………」
「それは性質じゃあないかしら。いくら真剣でも、自分を解剖するたちの人だったら、なかなかそうは云えないんじゃない?」
「僕だったら、結果はうそをつくことになってもその時はちゃんと約束するな」
「阿曽は又、なまじ約束なんかすると、それがあるために却っていつも、『飽きやしないか、飽きやしないか』と云う気がするに違いない。自分の性質ではきっとそうなるからって、それを恐れているんですの。だからお互に約束をしないで現在のままで一緒になるのが一番いい。自分の気持を縛らないでくれた方が結局永くつづくからって―――」
「そうかも知れないが、どうも少し………」
「何なの?」
「遊戯気分が過ぎるようだな」
「あたしには性格が分っているから、そう云われた方が安心なんだけれど」
「斯波君にはそれを話したんですか」
「話さないわ。今日までこんな話が出る機会もなかったし、話したって無駄なんですから。