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くらのにかい
蔵の二階
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页
母も一緒に土蔵へはいったことがあるし、あの時のことを、年老いた今でも覚えてる筈である。――その同じ土蔵なのだ。戦災に破損しているし、内部は住居向きに改造してはあるが、それでも土蔵たることに変りはない。入口の扉を閉め切ると、屋外の物音はあまり聞こえなくなる。二階とて同じであろう。実の笹藪の中の犬の足音など、果して聞き取れるであろうか。
然し、そのようなこと、桂介は胸にひめて黙っていた。
そのようなことを知らない久子の方が、桂介に囁くのである。
「お母さんの話、なんだかへんね。」
へんだというのは、遠慮してるので、実は気味わるがってるのである。
カヨに向っては、久子は、皆と一緒に一階に寝ることを勧めた。
カヨはちょっと襟を正すような様子で、きっぱり言うのである。
「わたしが下に寝たら、二階には誰が寝ますか。二階を空け渡すようになったら、この家ももうだめですよ。」
それは彼女の持論だった。二階には誰も寝なくてよいということが、どうも納得ゆかないらしい。彼女が一階に寝ることは、二階を誰か他人に空け渡すことで、そうなっては、白井家ももう全く没落だと思ってるのである。