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そばのはなのころ

蕎麦の花の頃

李 孝石

「文学案内」1937(昭和12)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,494 字 · 16 页

青空文庫

明日は珍富と大和に市が立つ。連中はそのどちらかへ、夜を徹し六七里の夜道をてくらなければならなかった。市場は祭りの跡のようにとり散らかされ、酒屋の前では喧嘩がおっ始まっていたりした。酔痴れている男たちの罵声にまじって、女の啖呵が鋭く裂かれた。市日の騒々しさは、きまって女の啖呵に終るのだった。

――生員。俺に黙ってるだが、気持あ解るだよ。……忠州屋さ。

女の声で、思い出したらしく、趙先達は北叟笑みをもらした。

――画の中の餅さ。役場の連中を、相手じゃ、勝負にならねえ。

――そうばかりもゆくめえ。連中が血道を上げてるのも事実だが、ほら仲間のあの童伊さ、うまくやってるらしいで。

――なに、あの若僧が。小間物ででも釣っただべえ、頼母しい奴だと思ってただに。

――その道ばかりゃあ判んねえ。……思案しねえと、行ってみべえ。俺がおごるだよ。

すすまないのを、跟いて行った。許生員は女にはとんと自信がなかった。いもがおをずうずうしくおしてゆくほどの勇気もなかったが、女の方からもてたためしもなく、忙しいいじけた半生だった。忠州屋のことを、思って見ただけで、いい年して子供のようにぽっとなり、足もとが乱れ、てもなくおびえ竦んでしまう。