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ふきもんどう

蕗問答

山本 周五郎

「冨士」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,898 字 · 14 页

青空文庫

四

「それはいい思着だ、当地では捨てるほどあり余っているのだから、もし売れたらいい物産になるだろう、……よく考えたな」

「この夏のはじめに、お上がお国許から大蕗をお取寄せになりましたでしょう、あれを見て諸侯さま方がたいそう珍重あそばすのを拝見いたしたとき、ふと思着いたのでございます」

「この夏、……殿が、大蕗を……」

新九郎は思出した。

あのとき諫言に出掛けて途中で忘れたことを、……いまの浪江の言葉で、はっと思出したのである。

四

「そうだ、それだ、それだ」

そう呟くと、もう蕗漬のことなどはそのまま、急いで自分の居間へ取って返した。

今度こそ忘れてもいいように、料紙と硯を取出して大きく「蕗のこと」と書く、それから書棚を捜して「平八郎聞書」と題した手写本を持ってくると、その中からなにやら抜書きして確りと封にした。

老職へは使を出しておいて、明くる早朝江戸へ向けて出発した。

途中ずっと、宿へ着く毎に例の書付を披げては暗誦しながら、急ぎに急いで、江戸邸へと入ったのは十月二日夕刻であった。

――新九郎出府。

という知らせに、義敦は首を傾げた。

今度も押掛けの出府である、しかしまえの時とは違って意見されるような覚えもないので、なにごとであろうかとすぐ書院で引見した。