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ふきもんどう
蕗問答
山本 周五郎
「冨士」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,898 字 · 14 页
新九郎はその時能代地方を巡視していて留守であったが、帰ってきてその事情を聞くと、
「それは怪しからぬ」
と眼を剥いた。
彼は額の広い顎の張った、鼻も口も大きく、それぞれがおしなべてゆったりとあぐらをかいているという顔だちであったが、その眼は殊に偉大なるもので、怒ったときなどは実に吃驚するくらいのものであった。
「それは怪しからぬ」
と彼は声を励して云った、「つまらぬ自慢話のために、早馬の使者を立ててわざわざ蕗を取寄せるなどは、特に御窮迫の折柄なんとも軽々しい御所業、さようなことでは御政治向の改革も徹底はいたすまい、御意見を申上げなければならぬ」
そう云ってただちに秋田を出立した。
江戸まで諫言に行こうというのである、……尤もそんな事はそのときが初めてではなく、その前にも何回となく例があった、なにしろ思い立った時に実行しないと忘れる心配もあるのだから無理もあるまい。彼は能代から帰った旅装のまま、二名の供を伴れて江戸へ向った。
ところが、途中まで来て大変なことになった、なにが大変かと云うと、江戸へ行く目的である諫言の仔細を忘れてしまったのである。いや冗談ではない。