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はくめい
薄明
新紀元社刊、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,073 字 · 18 页
やらその家の財産にも云々、などと、まさかそれほど邪推するひとも有るまいが、何にしても、こっちは年上なのだから、無意識の裡にも、彼等のプライドを、もしや蹂躙するという事になってやしないだろうか、とその頃の実感で言えば、まるで、柔い苔の一ぱい生えている庭を、その庭の苔を踏むまいとして、飛び石伝いに、ひょいひょいとずいぶん気をつけて歩いているような姿であった。もっと、としをとって、世間の苦労も大いに積んで来た男がひとりこの家にいたら、私たちも、もう少し気楽なのではあるまいか、とさえ思われた。ネガチヴの気遣いも、骨の折れるものである。私は、その家の裏庭に面した六畳間を私の仕事部屋兼寝室として借り、それからもう一間、仏壇のある六畳間を妻子の寝室という事にしてもらって、普通の間代を定め、食費その他の事に就いても妻の里のほうで損をしないように充分に気をつけ、また、私に来客のある時には、その家の客間を使わずに、私の仕事部屋のほうにとおすという事にしていたのであるが、しかし、私は酒飲みであり、また東京から遊びに来るお客もちょいちょいあるし、里の権利を大いに重んずるつもりでいながら、つい申しわけのない結果になりがちの事が多かった。