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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

その裾から竹垣のところまでは、梅の老樹の疎林がひろがってい、竹垣の向うは、門から玄関へ通ずる敷石道であった。

「兄さん」と弟の佐久馬が手にした書物を見て云った、「これはなんと読むのかな、御なんとか花記というこれ、高楷宗恒という人の」

「おさばなの記だ」と銕太郎が答えた。

「へえ、この宇冠に最という字がですか」と佐久馬が訊いた、「これは雑書の部へいれますか」

「和学の中だ」と銕太郎が云った。

くぬぎ林へ百舌鳥の群が舞いおりて来、やかましく叫びながら、枯れた枝のあいだを飛びまわった。

「仔細は申上げられません、どうぞなにもお訊きにならないで下さい」と妻のゆきをが云った、「このお願いを聞いて下さらなければ、私は自害するほかはありませんし、加川の御家名にも瑕がつくのです」

終りの言葉は、銕太郎の耳の奥で、こだまのように長く、繰り返し尾をひいて反響した。御家名に瑕がつく、御家名に、瑕がつく、瑕がつく、瑕がつく、つくのです。銕太郎は静かに振向いた。妻のゆきをは化粧をしてい、鏡の中からこちらを見ていた。

――これはあとのことだ、と銕太郎は思った。

かんじんなことはもっとまえだ。