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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

結婚したそもそものときから始まって、始まったことがわからないままで、悪いほうへと続いていった。

「なにが気にいらないんだ」と銕太郎は鏡の中の妻の眼を見ながら訊いた、「いったいなにが不満なのか、云ってみるがいいじゃないか」

「どうしてそんなことを仰しゃいますの」

「自分で知っている筈だ」

「わたくし不満などはございません」とゆきをは答えた、それは心の底に強い不満のあることを、証明するような調子であった、「あなたはわたくしがお気にめさないので、そんなふうに仰しゃるのでしょう」

「話をそらすことは上手だ」

「御不満なのはあなたです」ゆきをは悩ましげに溜息をした、嬌めかしいと云ってもいいほど悩ましげな、訴えるような溜息であった、「でもわたくしにはどうにもならない、どうにもならないんです」それから銕太郎に向って云った、「――教えて下さいまし、あなた、わたくしどうしたらいいのでしょう」

銕太郎は眼をあげた。くぬぎ林で騒いでいた百舌鳥の群が、突然なにかをみつけたように、一斉に舞いあがったとみると、群は二つに別れて、一方は「沼」のほうへ飛び去り、片方はまたくぬぎ林に舞いおりた。