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ふじのみ
藤の実
寺田 寅彦
「鉄塔」1933(昭和8)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,795 字 · 6 页
それから二三日たってから、宅の他の子供がデパートでハンドバッグを掏摸にすられた。そうして電車停留場の安全地帯に立っていたら、通りかかったトラックの荷物を引っ掛けられて上着にかぎ裂きをこしらえた。その同じ日に宅の女中が電車の中へだいじの包みを置き忘れて来たのである。これらは現在の科学の立場から見ればまるで問題にもなにもならないことで、全く偶然といってしまうよりほかはないことである。しかし、これが偶然であると言えば、銀杏の落葉もやはり偶然であり、藤豆のはじけるのも偶然であるのかもしれない。またこれらが偶然でないとすれば、前記の人事も全くの偶然ではないかもしれないと思われる。少なくも、宅に取り込み事のある場合に家内の人々の精神状態が平常といくらかちがうことは可能であろう。
年末から新年へかけて新聞紙でよく名士の訃音が頻繁に報ぜられることがある。インフルエンザの流行している時だと、それが簡単に説明されるような気のすることもある。しかしそう簡単に説明されない場合もある。
四五月ごろ全国の各所でほとんど同時に山火事が突発する事がある。一日のうちに九州から奥羽へかけて十数か所に山火事の起こる事は決して珍しくない。