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やぶおとし
藪落し
山本 周五郎
「アサヒグラフ」1935(昭和10)年2月17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,118 字 · 14 页
しかしそれは十年ほど前のことで、それ以来この地方でやまさがしをする者はなくなっている、もうこの県内には水晶砿山はないというのがこのごろの常識になっているのだ。
――もうやまはないとか聞いていますが、あなたはあてがあるのですか。
お豊がおそるおそる聞いた。
――あてがなくてやまさがしなどをするものか、おまえだけに話すのだが、じつはかんば沢のあたりにひとやまあるはずなのだ、これをみてごらん。
勘三郎はそう云って、仏壇の抽出から一枚の古ぼけた調書のような物を取出してきた。お豊には読んでも分らなかったが、勘三郎の説明によると、それは祖父に当る金次郎という人が三十余年かかって調べあげた覚書で、その郡の山地の地質表のようなものであり、かんば沢の奥に水晶砿脈がなければならぬということが仔細に書きしるしてあるという、それにはまた十数通も県の技師の鑑定書が綴りこんであった。
――いま市の水晶商人の扱っている品は、みんな支那や満洲や南米あたりから輸入しているもので、これはぐっと品位がおちる。このあたりから出るみごとな六角結晶をした品は、とうていそんな輸入品の及ばぬ上等な水晶ばかりだ、ことにおれの捜しているやまはこれにも書いてあるとおり、紫水晶の砿脈だから、捜し当てればそれこそ大変な儲けになるのだ、そういうわけだから長いこと