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やぶおとし

藪落し

山本 周五郎

「アサヒグラフ」1935(昭和10)年2月17日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,118 字 · 14 页

青空文庫

勘三郎は叔父の邸外にある古い隠居所をもらい、それに手入れをして親子三人の寝どころを造った。そしてお豊はほとぼりのさめるのを待って叔父に知れぬように良人を山へ出してやった。

あなたの働く分ぐらいのことは、わたしと裕吉でけっこうやってゆけます、叔父さんに訊かれたら何とかうまく云っておきましょう。

お豊は蒼白い頬に、母のような微笑をうかべて云いながら良人を送り出した。

それから三月ばかりしてお豊は死んだ。過労からきた心臓の病気で、倒れたと思うと医者の来る間もまたずに急死したのである。勘三郎はもちろんその死目に会わなかった。

山から帰って来た勘三郎は、人々の集まっている暗い部屋の中で、お豊の死顔をひと眼見るなり、突きとばされたように家をとび出して、そのまま夢中で山のほうへ走りだした。叔父の多吉が後を追って出ると、夕月の光の中を――お豊、お豊と喚きながら、狂気のように走り去る勘三郎の後姿が見えた。

明る日になっても勘三郎の帰るようすがないので、村の人たちは手分けをして捜すことになった。そしてひと組の青年たちが、かんば沢の櫟林の中に彼をみつけだした。

勘三郎はそれから半年あまり山へ入らなかった。