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あしかり

蘆刈

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页

青空文庫

雑草の中を蹈みしだきながらひとりでその洲の剣先の方へ歩いて行って蘆の生えている汀のあたりにうずくまった。まことに此処は中流に船を浮かべたのも同じで月下によこたわる両岸のながめをほしいままにすることが出来るのである。わたしは月を左にし川下の方を向いているのであったが川はいつのまにか潤おいのあるあおい光りに包まれて、さっき、ゆうがたのあかりの下で見たよりもひろびろとしている。洞庭湖の杜詩や琵琶行の文句や赤壁の賦の一節など、長いこと想い出すおりもなかった耳ざわりのいい漢文のことばがおのずから朗々たるひびきを以て唇にのぼって来る。そういえば「あらはれわたるよどの川舟」と景樹が詠んでいるようにむかしはこういう晩にも三十石船をはじめとして沢山の船がここを上下していたのであろうが今はあの渡船がたまに五、六人の客を運んでいる外にはまったく船らしいものの影もみえない。わたしは提げてきた正宗の罎を口につけて喇叭飲みしながら潯陽江頭夜送レ客、楓葉荻花秋瑟々と酔いの発するままにこえを挙げて吟じた。そして吟じながらふとかんがえたことというのはこの蘆荻の生いしげる