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あしかり

蘆刈

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页

青空文庫

わたしはあたまの中に一つ二つ腰折がまとまりかけたのでわすれないうちにと思ってふところから手帳を出して月あかりをたよりに鉛筆をはしらせて行った。わたしは、まだいくらか残っていた酒に未練をおぼえて一と口飲んでは書き一と口飲んでは書きしたが最後の雫をしぼってしまうと罎を川面へほうり投げた。と、そのとき近くの葦の葉がざわざわとゆれるけはいがしたのでそのおとの方を振り向くと、そこに、やはり葦のあいだに、ちょうどわたしの影法師のようにうずくまっている男があった。こちらはおどろかされたので、一瞬間、すこし無躾なくらいにまじまじと風態を見すえるとその男はべつにたじろぐ気色もなくよい月でござりますなとさわやかなこえで挨拶して、いや、御風流なことでござります、じつはわたくしも先刻から此処におりましたなれども御清境のおさまたげをしてはと存じてさしひかえておりましたがただいま琵琶行をおうたいなされましたのを拝聴しまして自分もなにかひとくさり唸ってみたくなりました、御迷惑でござりましょうがしばらくお耳を汚させてくださいませぬかという。見も知らぬ人がこういう風に馴れ馴れしく話しかける