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あしかり
蘆刈
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页
女中がそのまえに立って舞い扇をひらひらさせながら舞っておりますのが顔だちまでは見えませぬけれどもしぐさはよく見えるのでござります、座敷の中にはまだその時分は電燈が来ていなかったものかそれとも風情をそえるためにわざとそうしてありましたものか燭台の灯がともっていて、その穂が始終ちらちらしてみがきこんだ柱や欄杆や金屏風にうつっております。泉水のおもてには月があかるく照っていまして汀に一艘の舟がつないでありましたのは多分その泉水は巨椋の池の水をみちびいたものなのでここからすぐに池の方へ舟で出られるようになっているのでござりましょう、で、ほどなく舞いが終りますと腰元どもがお銚子を持って廻ったりしておりましたが、こちらから見たぐあいでは腰元どもの立ちいふるまいのうやうやしい様子からどうもその琴をひいた女が主人らしゅうござりましてほかの人たちはそのお相手をしているようなのでござりました。なにしろ今から四十何年の昔のことでござりましてそのころは京や大阪の旧家などでは上女中には御守殿風の姿をさせ礼儀作法は申すまでもござりませぬが物好きな主人になりますと遊芸などをならわせた