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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

違うところ、ございませんのね。謙さんは、あなたを尊敬して居るのではございません。そんなにひとり合点なさいましては、とんでもないことになりましょう。貴方のお小説のどこを、また、どんな言葉で、申して居るか、私は、あんまり謙さんのお心ありがたくて、レコオドに含ませて、あなたへお送りしたく存じます。どんな雑誌にお書きになろうと、他にもファンが、どんなにたくさんおいでになろうと、謙さんには、ちっとも問題でございませぬ。そうして、謙さんは、人間として、どうしてもあなたより上でございますから、あなた御自身でお気のつかないところを、よく細心御注意なされ、そうして、貴方をかばっています。私たちの二年後の家庭の幸福について少しでもお考え下さいましたならば、貴方様も、以後、謙さんへあんな薄汚いもの寄こさないで下さい。いつでも、私たちの争いのもとです。さいわいにも、あなたに、少しでも人間らしいお心がございましたら、今後、態度をおあらため下さることを確信いたします。ゆめにさえ疑い申しませぬ。明瞭に申しますれば、私は、貴方も、貴方の小説も、共に好みませぬ。毛虫のついた青葉のしたをくぐり抜ける気持ちでございます。