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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

あの雑誌はいつまでも、僕を無名作家にしたがっている。『月夜の華』というのだ。下手くそにいっていたとしても、むしろ、この方を宣伝して呉れ。提灯をもつことなんて一番やさしいことなんだから。二、僕と君との交友が、とかく、色眼鏡でみられるのは仕方がないのではないかな。中畑というのにも僕は一度あってるきりだし、世間さまに云わせたら、僕が君をなんとかしてケチをつけたい破目に居そうにみえるのではないかしら。僕だけの耳へでも、僕が君をいやみに言いふらして居るらしい噂が聞えてくる。そして人からいろいろ忠告されたりする。構わんじゃろ。君と僕が対立的にみられるのは僕にはかえって面白いくらいだ。たとえばポオとレニンが比較されて、ポオがレニンに策士だといって蔭口をきいたといった風なゴシップは愉快だからな。何よりも僕の考えていることは、友人面をしてのさばりたくないことだ。君の手紙のうれしかったのは、そんな秘れた愛情の支持者があの中にいたことだ。君が神なら僕も神だ。君が葦なら――僕も葦だ。三、それから、君の手紙はいくぶんセンチではなかったか。というのは、よみながら、僕は涙が出るところだったからだ。