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きょこうのはる
虚構の春
「文学界」1936(昭和11)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页
廻転ドアにわれとわが身を音たかく叩きつけ、一直線に旅立ったときのひょろ長い後姿には、笑ってすまされないものがございました。四日目の朝、しょんぼり、びしょ濡れになって、社へ帰ってまいりました。やられたのです。かれの言いぶんに拠れば、字義どおりの一足ちがい、宿の朝ごはんの後、熱い番茶に梅干いれてふうふう吹いて呑んだのが失敗のもと、それがために五分おくれて、大事になったとのこと、二人の給仕もいれて十六人の社員、こぞって同情いたしました。私なども編あげ靴の紐を結び直したばかりに、やはり他社のものに先をこされて、あやうく首切られそうになったかなしい経験がございます。高橋君は、すぐ編輯長に呼ばれて、三時間、直立不動の姿勢でもって、説教きかされ、お説教中、五たび、六たび、編輯長をその場で殺そうと決意したそうでございます。とうとう仕舞いには、卒倒、おびただしき鼻血。私たち、なんにも申し合わせなかったのに、そのあくる日、二人の給仕は例外、ほかの社員ことごとく、辞表をしたためて持って来ていたのでございます。そうして、くやしくて、みんな編輯長室のまえの薄暗い廊下でひしと一かたまりにかたまって、ことにも私、どうにもこうにも我慢ならず、かたわらの友人の、声しのばせての歔欷に誘われ、大声放って泣きました。