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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

居る。そう言いむすんだとき、見よ、世界の人の中のひとり、私の先輩も、頬を染めて浮かれだし、サロンの空気がたいへんパッショネエトにされてしまって、いつしか、私のひめにひめたるお湯にも溶けぬ雪女について問われるがままに語って聞かせて居たのである。

――年齢。

――十九です。やくどしです。女、このとしには必ず何かあるようです。不思議のことに思われます。

――小柄だね?

――ええ、でもマネキン嬢にもなれるのです。

――というと?

――全部が一まわり小さいので、写真ひきのばせば、ほとんど完璧の調和を表現し得るでしょう。両脚がしなやかに伸びて草花の茎のようで、皮膚が、ほどよく冷い。

――どうかね。

――誇張じゃないんです。私、あのひとに関しては、どうしても嘘をつけない。

――あんまり、ひどくだましたからだ。

――おどろいたな。けれども、全く、そうなんです。私、二十一歳の冬に角帯しめて銀座へ遊びにいって、その晩、女が私の部屋までついて来て、あなたの名まえなんていうの? と聞くから、ちょうど、そこに海野三千雄、ね、あの人の創作集がころがっていて、私は、海野三千雄、と答えてしまった。