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きょこうのはる
虚構の春
「文学界」1936(昭和11)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页
一言半句、こころにきざまれているような気がしています。本屋から千葉の住所を諳記して来てかきとって置いたのが去年の八月である。それを役立てることが今迄できなかったけれども。『太宰どん! 白十字にてまつ。クロダ。』大学の黒板にかかれてあったのは、先日であったろうか。『右者事務室に出頭すべし、津島修治。』文学部事務所にその掲示は久しくかけられてあった。僕は太宰治を友人であるごとくに語り、そして、さびしいおもいをした。太宰治は芸術賞をもらわなかった。僕は藤田大吉という人の作品を決して読むまいと心にちかった。僕は、そんなに他人の文章を読まないけれども、道化の華、ダス・ゲマイネ、理解できないのではなく、けれども満足ができなかった。之は、書くぞ、書くぞという気合と気魄の小説である。本物の予告篇だと思っていた。そして今に本物があらわれるかと、思っていると、その日その日が晩年であった、ということばがほんとうなのかとうたがわれて来た。健康をそこね、写真はすきとおってやせていた。そして、太宰治は有名になり、僕は近づけない気がした。僕には、道化の華が理解できないのだと思った。