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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

あまり、煩さい無駄口はききますまい。ヴァレリイが俗っぽくみえるのはあなたの『逆行』『ダス・ゲマイネ』読後感でした。然し、ここには近代青年の『失われたる青春に関する一片の抒情、吾々の実在環境の亡霊に関する、自己証明』があります。然し、ぼくは薄暗く、荒れ果てた広い草原です。ここかしこ日は照ってはいましょう。緑色に生々と、が、なかには菁々たる雑草が、乱雑に生えています。どっから刈りこんでいいか、ぼくは無茶苦茶に足の向いた所から分け入り、歩けた所だけ歩いて、報告する――てやがんだい。ぼくは薄野呂です。そんなんじゃあない。然し、ぼくは野蛮でたくましくありたいのです。現在ぼくの熱愛している世界はどの作家にもありません。ドストエフスキイが一番好きです。ぼくのこのみの平凡さを軽ベツしないで下さい。ぼくは今年こそ、なにか、書きたいと思っています。だが、小説に、人生に、なんの意義がありましょう。意義なんてない。飯を食うように、小説を書く。あんなに、実務的精神をにくんだシェストフでさえ、全集を残している。だから、力んでもいいでしょう。僕は誰にでも、有名な人から手紙を貰うと、斯んな訳の分らぬ図々しい宣伝文を書く癖があるのでしょう。