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むしのいのち

虫の生命

海若 藍平

「九州日報」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,854 字 · 6 页

青空文庫

炭焼きの勘太郎は妻も子も無い独身者で、毎日毎日奥山で炭焼竈の前に立って煙の立つのを眺めては、淋しいなあと思っておりました。

今年も勘太郎は炭焼竈に楢の木や樫の木を一パイ詰めて、火を点けるばかりにして正月を迎えましたが、丁度二日の朝の初夢に不思議な夢を見ました。

勘太郎は睡っているうちに、どこからともなく悲しい小さい声で歌う唱い声が聞こえて来ました。

街には人の冬ごもり

明るい楽しい美しい

樹々には虫の冬ごもり

暗い悲しいたよりない

冬の夜すがら鳴る風や

降る雪霜のしみじみと

たよりに思う樫の樹は

伐りたおされて枯らされて

炭焼竈に入れられて

明日は深山に立つけぶり

その樫の樹ともろ共に

灰か煙りかかた炭か

あとかたもなく消えて行く

悲しい悲しいそのいのち

たれがあわれと思おうか

小さい小さい虫一つ

たれがあわれと思おうか

このうたがだんだん耳に近くに聞こえて来ましたから、勘太郎はフッと眼を開いて見ましたら、真暗な中に美しいお姫様が一人突立って、奇麗な両袖を顔に当て、さめざめと泣いている姿がありありと見えました。

勘太郎は驚いてはね起きますと、これは夢で、もう夜が明けていて、表には一パイ雪が降り積っているのが見えました。