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うじのこうよう

蛆の効用

寺田 寅彦

「自由画稿」1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,698 字 · 4 页

青空文庫

虫の中でも人間に評判のよくないものの随一は蛆である。「蛆虫めら」というのは最高度の軽侮を意味するエピセットである。これはかれらが腐肉や糞堆をその定住の楽土としているからであろう。形態的には蜂の子やまた蚕とも、それほどひどくちがって特別に先験的に憎むべく、いやしむべき素質を具備しているわけではないのである。それどころか、かれらが人間から軽侮される生活そのものが、実は人間にとって意外な祝福をもたらす所以になるのである。

鳥や鼠や猫の死骸が、道ばたや縁の下にころがっていると、またたく間に蛆が繁殖して腐肉の最後の一片まできれいにしゃぶりつくして白骨と羽毛のみを残す。このような「市井の清潔係」としての蛆の功労は古くから知られていた。

戦場で負傷したきずに手当てをする余裕がなくて打っちゃらかしておくと、化膿してそれに蛆が繁殖する。その蛆がきれいに膿をなめつくしてきずが癒える。そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後、特に外科医の方で注意され問題にされ研究されて、今日では一つの新療法として、特殊な外科的結核症や真珠工病などというものの治療に使う人が出てきた。