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じゃせいのいん
蛇性の婬
田中 貢太郎
雷峰怪蹟
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,880 字 · 54 页
許宣は三橋巷の親類へと往った。親類では夕飯の時刻だからと云って引留めようとしたが、許宣は家の外に幸福が待っているような気がして、家の内に置かれるのが厭だから、強いて傘ばかり借りて外へ出た。ぱっとさした傘に絡まる軽い爽かな雨の音。
洋場頭に往ったところで、聞き覚えのある優しい女の声がした。
「おや、あなた」
許宣は左の方を揮り向いた。そこの茶館の簷下にさっきの白娘子が独り雨を避けて立っていた。
「や、あなたでしたか、さっきは失礼しました」
「さきほどは有難うございました、どうも雨がひどいものですから、婢に傘を執りに往ってもらって待っているところでございます」
「そうですか、それは……、では、この傘を持っていらっしゃい、私はすぐそこですから、傘が無くっても宜いのです」
許宣は己の手にした傘を女に渡そうとしたが、女は手を出さなかった。
「有難うございますが、それではあんまりでございますから、宜しゅうございます、もう、婢がまいりましょうから」
「なに、宜いんです、私は、もう、すぐそこですから、傘をさすほどのことはないのです、さあお持ちなさい、傘は私が明日でも執りにあがりますから」