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じゃせいのいん
蛇性の婬
田中 貢太郎
雷峰怪蹟
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,880 字 · 54 页
豊雄の家でも喜んで約束をしたので、庄司の家では女子を都へ迎いにやった。その女子の名は富子、やがて富子が都から帰って来ると、豊雄はその家に迎えられたが、二日目の夜になって、豊雄はよきほどに酔って、「年来の大内住に、辺鄙の人は将うるさくまさん、かの御わたりにては、何の中将、宰相などいうに添いぶし給うらん、今更にくくこそおぼゆれ」などと云って戯れかかると、富子は顔をあげて「古き契を忘れ給いて、かくことなる事なき人を時めかし給うこそ、こなたよりまして悪くなれ」と云ったが、その声は真女児の声であった。豊雄はわなわなとふるえた。「他人のいうことをまことしくおぼして、強に遠ざけ給わんには、恨み報いん、紀路の山々さばかり高くとも、君が血をもて峰より谷に灌ぎくださん」と怪しき声は云った。「吾君いかにむつかり給う、こうめでたき御契なるは」と云って屏風のうしろから出て来たのは彼の少女であった。
翌日になって豊雄は閨房から逃げ出して庄司に話した。庄司は熊野詣に年々来る鞍馬寺の法師に頼んで怪しい物を捉えてもらうことにした。鞍馬法師は雄黄を鎔いて小瓶に入れ、富子の閨房へ往ってみると、枯木のような角の生えた雪のように白い蛇が三尺あまりの口を開け、紅の舌を吐いて室の中一ぱいになっていた。