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たこのごときもの
蛸の如きもの
豊島 与志雄
「改造」1950(昭和25)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,085 字 · 21 页
空は青一色に円く、海も青一色に円い。地球が凸形に円く見えるのは地上にある時で、上空からは凹形に円く見える。壮大な瑠璃の酒杯を二つ重ねた、その中を、飛行機は飛んでいる。酒杯の縁の合せ目は、ぼーっと明るい閃めきだ。島が見えてくる。不規則に幾つも並んでいる。その上にさしかかると、海はますます青くなり、島々の周囲を白波が取り囲む。無人の岩山があり、その頂までさーっと白波が覆い、白波はまたさーっと引いて、黒い突兀たる岩山が現われ、それをまた白波が覆う。白色と青色との永遠の戯れだ。琉球上空の飛行である。
その琉球の、瑠璃色の海を思わせる眼を持ってる、沖繩生れの女中が、あの家にいる。切れの長い澄みきった眼で、真黒な瞳をじっと注いでくる。小麥色の引きしまった頬に、ふさふさした黒髪。南国調だ。パパイヤ、マンゴウ、ドリアン……それほど香気の強い果物は更に南方へ譲って、せめて、木影の凉風に泡盛の一杯。
二階には立派な座敷があるが、入口の土間に、白木の卓を並べた小さな飲み場がある。沖繩料理の白汁をすすり豚肉をつつきながら、泡盛を小杯でなめる。沖繩の人たちが行儀よく屯ろして、小声で話している。