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たこのごときもの

蛸の如きもの

豊島 与志雄

「改造」1950(昭和25)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,085 字 · 21 页

青空文庫

戦後、懐郷の念に禁じ難いものもあるであろう。だが、彼等が出て行ったあと、こんどは不行儀なことが始まる。

「ねえ、泡盛は酔いますねえ。泡盛は酔いの仕上げだ。」

縞のネクタイの結び目を乱し、縞のワイシャツを袖口から長く出してる、浅黒い顔の男である。

「ことに、ここのは本場ものですからね。」

景気のいいことを言ってるかと思うと、急にめそめそしてくる。

「あちこちで飲んで、月給を半分ほど使っちゃいましたよ。これじゃあ、女房の春の着替えも受け出せませんや。女房のやつ、何と言うかな……。南無泡盛大明神、われに知恵を授け給え、というわけで、一杯やってるんですが、酒は涙か……何とかと言って……。」

卓に顔を伏せて、ほんとに泣いてるのである。まったく、なっちゃいない。他人でなかったら殴りとばすところだ。

「泣くなと言ったって、これが泣かずにいらりょうか。はははは。」

もうけろりとしている。

「みんな帰っちゃった。僕一人を残してですよ。薄情な奴等ばかりだ。僕は孤独です。絶対に孤独です。そして悲しいんです。」

また顔を伏せてしまう。

沖繩生れの遼子が出て来て、彼の前腕に、かるく手先を添える。