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たこのごときもの

蛸の如きもの

豊島 与志雄

「改造」1950(昭和25)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,085 字 · 21 页

青空文庫

森田が拵えてくれる怪しげなカクテルを飲むことにする。

体も意識も、ふらふらと、明滅する感じだ。

森田が戸外まで送って出て、空を仰ぐ。

「あしたも、天気らしいな。」

独語には、俺は返事をしないことにきめている。第一、天気模様なんかどうだっていいじゃないか。

手っ取り早く、輪タクだ。

体がはいるだけの空間の、その幌の中は、別天地だ。蛸坊主からも脅かされず、沖繩の海からも誘なわれず、俺はうとうとと居眠る。そして夢を見た。

両側に欄干のある、橋らしい大道だ。はっきりした橋ではないが、橋のようでもある。その両方の欄干に沿って、二人の女が歩いている。そぞろ歩きのように、ゆっくりゆっくり歩いてゆく。欄干のつきるところまで行って、左側の女がくるりと振り向き、右側の女もくるりと振り向き、おや、というように軽く会釈を交わす。右側の女の顔は、はっきり見えて、よく識ってるのだが、名前は思い出せない。左側の女の顔は、ただ黒ずんで、なにも見えないが、右側の女と同一人だ。誰だったろう。右側の女が、左側の女の方へ寄っていって、囁くように言う。

「伊佐子さん、御病気でしたって、もうおよろしいの。