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くも

蜘蛛

甲賀 三郎

「文学時代」1930(昭和5)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,314 字 · 22 页

青空文庫

いや、いまさらおれはこんなことをくどくどと書きつける必要はない。結論はかんたんだ。おれはSを憎む。殺さなければならないほど憎む。それはうごかすべからざる事実だ。問題は彼を殺すべき方法である。

おれは過去三ヵ月にわたって、あらゆる殺人方法について研究してみた。が、どの方法も確実性と絶対不発見性とを具有しているものはなかった。

ただ一つちょっと面白い方法だと思ったのは、外国人のかいた短い探偵小説だった。

それはAという男がBという男を殺さなければならなくなって、ある大きいビルの一階と最上階にまったくおなじ位置に各一室をかりうけて、それをまったく同様に飾りつけた。もし眼かくしして突然そのうちの一つに連れこまれたとしたら、眼かくしをとられた刹那はたして、どの階にいるのかわからないことを必要とするのだった。こうしておいてある夜AはBを一階の部屋に連れこんで、とつじょ彼の自由を拘束して、この部屋には自動爆発装置が敷設してあるといつわり、いまより三十分後正九時にはこの部屋は爆発して、お前は粉微塵になるのだと脅かしたのちに、彼に睡眠剤をあたえて昏酔させた。そうして昏酔しているBをかかえて、かねて用意してあった最上階の一室に連れこんで、時計を九時五分前に止めて部屋のなかにBをおきドアをとざして逃げさった。