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みかん

蜜柑

佐左木 俊郎

「随筆」1927(昭和2)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,618 字 · 14 页

青空文庫

財産など、なんぼあったところで、お墓の中さまで持ってがれるもんでねえし……」とお婆さんの話は、なんだか自分のことを言っているようでもあった。

お美代は前掛けの端を噛んでいた。そして、その前掛けで折々眼を押さえた。

「俺も、若え時、牛馬のように――やっぱり、町の方さでも片付けば……」

「町さもどこさも、おらどこさも、一生どこさも行かねえは、婆さん。」

お美代は到頭、両手で掩うた顔を、お婆さんの布団の端に伏せた。やがて欷り泣きは、声にまでなって来た。

三

「こっちの婆様も、弱ってるぢでねえが?」

声と一緒に、外から障子を引き開けたのは、豆腐を売って歩く弥平爺だった。お婆さんはすぐ眼をあけたが、太陽の光線を受けて眼叩きを繰り返した。寝た位置がよかったので、ちょうど障子の間から出した顔と対していた。

「なんだ婆様、ひどく弱ったでねえが……」

弥平は、頬骨の突き出た白髪の頭をお婆さん方へ寄せた。けれども、お婆さんは、眩しそうに眼を開いたまま何も答えなかった。

「婆さん、弥平爺様だ。豆腐屋の弥平爺様だ。」

お美代は布団を軽く叩いてやりながら言った。お美代の顔には血の気がいっぱい上がっていた。