轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
みかん
蜜柑
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页
一
一
「大夫がお呼びなさる?」
源四郎はいぶかしげに問いかえした。
「大高のまちがいではありませんか、たしかに拙者をお呼びなさるのですか」
「いやまちがいではない」
使者はもどかしそうに、
「貴公を呼んでまいれと申しつかって来たのです。ゆだんのならぬご病状だからすぐに支度をしておいで下さい」
「相わかりました、すぐ参上いたします」
源四郎はとびたつように居間へはいった。
――大夫がじぶんを呼ぶ。
そう思うと胸がいっぱいになった。
紀州徳川家の家老、安藤帯刀直次は春から老病がつのるばかりで、この四五日は危篤の状態がつづいていた。直次は慶長十五年に、家康から選ばれてその第十子長福丸、すなわち後の頼宣の家老となった。そのとき頼宣は九歳で駿府城に封ぜられていたが、以来二十六年、よく主君を補佐して紀伊五十五万石の礎をかためた人物である。
直次には多くの逸話があるけれども、いかにすぐれた人物だったかということは、家康がしばしば頼宣にむかって、
――直次をみること父の如くせよ。
といましめたことが最もよく物語っているであろう。なお彼は田辺城三万石を領し、紀伊家の老職でいながら諸侯の待遇をうけていたし、江戸では一ツ橋外と、市谷左内坂とに土地と屋敷をたまわっていた。