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ちょうのえ
蝶の絵
久生 十蘭
「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页
、第3水準1-90-92)園という朽木の額をあげていた。シヲンヱンではない。「シヲンの園」と聖書風に読まなくてはいけないので、山川の庭では、花そのものにまで信仰の結晶が見られるわけだったが、夏の朝など、あじさいや庚申薔薇が風にそよいでいたあたりには、花らしいものの影もなく、荒々しい青葉が、ぼうぼうと乱れをみせて猛っていた。
「ひどく荒したもんだね」
「まだ、ごぞんじなかったのね。兄が、花のある庭は下品だといって、みな抜かせてしまったの」
花庭をきらうひとはあるが、花のある庭が下品だなどということはない。どこか調子をはずした庭の荒れかたを見ていると、山川の頭の乱れがわかるようで、不気味になった。
「礼拝はまだすまないの、おつとめは」
「兄はね、お風呂場の水道の蛇口の下へ、大きな洗面器をすえて、シャボンの泡をたてて、スポンジで、一日にいくども手を洗うんです……おつとめというのは、そのことなの……帰った当座は、お風呂場を水だらけにして、一日じゅう、洗濯をしていましたわ。汚れてもいないハンカチまでひっぱりだして、生地がぬけるほど洗いあげたり……そのほうはおさまったようですけど、手を洗うほうは、まだまだ……」