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ちょうのえ
蝶の絵
久生 十蘭
「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页
あの利口なやつが、すっかり駄目になっていた」
「あいつは病気で死ぬような奴じゃないから、噂どおり、死刑だったんだろう?」
「だろうと思うね。あそこの司政長官は、相当、原住民を痛めつけたはずだから、つながる縁で、津村もやられたのかもしれない」
「君は知らないのか。おれは知ってるんだとばかり思っていた」
「バタヴィアのチプナン刑務所へ送られたことは聞いたが、間もなく僕の部隊はニューギニアへ移ったので……あのころ、岩城は弁護団側の通訳をしていたから、岩城なんかのほうがよく知っているかもしれない」
「津村のおやじはどうなんだ」
「噂くらいは聞いているだろうから、うすうすさとっているんじゃないのか。むっつりして、酒ばかり飲んでいるそうだ。庭木を売りにだしたというのは、財産税のためよりも、田舎へひっこむ支度らしいね」
そんなことをいっているうちに、心がきまったらしく、のっそりと椅子から立ちあがった。
「見るだけ、見てみようかな……どうだい、すぐそこだから、いっしょに行ってみないか」
植木屋を連れて、三人で近くの津村の控邸へ行くと、下町の古舗の大旦那といった上品な老人が、巻帯に白足袋といった恰好で、縁の落ちた数寄屋風の離屋から出てきた。