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ちょうのえ
蝶の絵
久生 十蘭
「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页
山川はたしかに影をもっているね。本心は、なにか言おうとしているんだが、山川がそれをおさえつけている。そういう格闘が、僕には感じられた……復員祝いの晩の猿の話にしたって、あれァ、全然、虚構なんだぜ。ニューギニアにはオランウータンなんか絶対にいない。ドリアンなんてものも、あったらお目にかかる。これくらいのことは、小学生だって知っている。われわれをバカにするつもりならわかるが、それにしたって、なんのために、つまらない嘘なんかつくんだい。だまっていたが、あの晩、おれはあまり愉快じゃ、なかったんだ」
手を洗うとか、赤い色が気になるとか、そんなことを考えあわせると、思い浮かべられることがないでもない。山川がどんな秘密を持っているにしても、それはすべて山川に属する問題で、告白する義務などないが、いもしない猿を殺したとか、血だらけの手だとか、なぜ、あんなよけいなことをいったのか、理解することができなかった。
須田が帰ると、岩城南光がやってきた。伊沢とおなじころ、外務省の書記生でロンドンにいたが、牧野義雄に啓発されて画道にうちこみ、外交官の未来を投げて、パリの貧乏絵描きの仲間へ入りこんでしまった。