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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

仕事もろくに出来ない日に、飯ば鱈腹食われてたまるもんか」

ジロジロ棚の上下を見ながら、左肩だけを前の方へ揺って出て行った。

「一体あいつにあんなことを云う権利があるのか」――船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、ブツブツ云った。

「浅川ッたら蟹工の浅か、浅の蟹工かッてな」

「天皇陛下は雲の上にいるから、俺達にャどうでもいいんだけど、浅ってなれば、どっこいそうは行かないからな」

別な方から、

「ケチケチすんねえ、何んだ、飯の一杯、二杯! なぐってしまえ!」唇を尖んがらした声だった。

「偉い偉い。そいつを浅の前で云えれば、なお偉い!」

皆は仕方なく、腹を立てたまま、笑ってしまった。

夜、余程過ぎてから、雨合羽を着た監督が、漁夫の寝ているところへ入ってきた。船の動揺を棚の枠につかまって支えながら、一々漁夫の間にカンテラを差しつけて歩いた。南瓜のようにゴロゴロしている頭を、無遠慮にグイグイと向き直して、カンテラで照らしてみていた。フンづけられたって、目を覚ます筈がなかった。全部照し終ると、一寸立ち止まって舌打ちをした。――どうしようか、そんな風だった。が、すぐ次の賄部屋の方へ歩き出した。