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かにこうせん
蟹工船
小林 多喜二
「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页
――川崎船が二隻近づいてきたのだった。二隻はお互にロープを渡して結び合っていた。
それは間近に来ていた。然し大きな波は、川崎船と本船を、ガタンコの両端にのせたように、交互に激しく揺り上げたり、揺り下げたりした。次ぎ、次ぎと、二つの間に波の大きなうねりがもり上って、ローリングした。目の前にいて、中々近付かない。――歯がゆかった。甲板からはロープが投げられた。が、とどかなかった。それは無駄なしぶきを散らして、海へ落ちた。そしてロープは海蛇のように、たぐり寄せられた。それが何度もくり返された。こっちからは皆声をそろえて呼んだ。が、それには答えなかった。漁夫達の顔の表情はマスクのように化石して、動かない。眼も何かを見た瞬間、そのまま硬わばったように動かない。――その情景は、漁夫達の胸を、眼のあたり見ていられない凄さで、えぐり刻んだ。
又ロープが投げられた。始めゼンマイ形に――それから鰻のようにロープの先きがのびたかと思うと――その端が、それを捕えようと両手をあげている漁夫の首根を、横なぐりにたたきつけた。皆は「アッ!」と叫んだ。漁夫はいきなり、そのままの恰好で横倒しにされた。