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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

彼等は其処に二日いて、身体を直し、そして帰ってきたのだった。「帰ってきたくはなかった」誰が、こんな地獄に帰りたいって! が、彼等の話は、それだけで終ってはいない。「面白いこと」がその外にかくされていた。

丁度帰る日だった。彼等がストオヴの周りで、身仕度をしながら話をしていると、ロシア人が四、五人入ってきた。――中に支那人が一人交っていた。――顔が巨くて、赤い、短い鬚の多い、少し猫背の男が、いきなり何か大声で手振りをして話し出した。船頭は、自分達がロシア語は分らないのだという事を知らせるために、眼の前で手を振って見せた。ロシア人が一句切り云うと、その口元を見ていた支那人は日本語をしゃべり出した。それは聞いている方の頭が、かえってごじゃごじゃになってしまうような、順序の狂った日本語だった。言葉と言葉が酔払いのように、散り散りによろめいていた。

「貴方方、金キット持っていない」

「そうだ」

「貴方方、貧乏人」

「そうだ」

「だから、貴方方、プロレタリア。――分る?」

「うん」

ロシア人が笑いながら、その辺を歩き出した。時々立ち止って、彼等の方を見た。

「金持、貴方方をこれする。