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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

「弁当屋が持って来たのなら、怪しくはあるまいが……」

「ことに新兵器なるものは、敵がまったく思いもかけなかったような性能と怪奇な外観をもつのを佳とする。もし蠅の形に似せた新兵器があったとしたら……。そしてあの弁当屋の小僧が実は白軍のスパイだったとしたら……」

「君は神経衰弱だッ」。

「参謀は神経が鈍すぎるッ」

「いいや、君は……」

「鈍物参謀」

「やめいッ!」

と軍団長が大喝した。

「はッ」と二人は直立不動の姿勢をとった。

「もうやめいッ、論議は無駄だ。喋っている遑があったら、なぜあの蠅を手にとって検べんのじゃ」

「はッ」

二人は顔を見合わせた。誰が蠅を検べにゆくのがよいか――と考えた。その途端に、フョードルも、中尉もハッと顔色をかえて、胸をおさえた。軍団長もヨロヨロとよろめきながら、右手で心臓を圧えた。そればかりではない。司令部広間にいた幕僚も通信手も伝令も、皆が胸を圧えた。そして次の瞬間には立てて並べてあった本がバタリバタリと倒れるように、一同はつぎつぎに床の上に昏倒した。間もなく、この大広間は、世界の終りが来たかのように、一人のこらず死に絶えた。まことに急激な、そして不可解な死に様だった。