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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

別に解けなくともよい。気に入る間だけ、舌の上に載せた飴玉のように、あっちへ転がし、こっちへ転がしていればいいのだ。さて、蠅がどうしてこんなに止まっているのか。

(ウン、そうだ……)

そうだ。蠅はさっきまで一匹も壁の上に止まっていたように思われない。蠅が急に壁の上に殖えたのは、先刻の豪雨があってから、こっちのことだ。

(そうだ。雨が降って、それで蠅が殖えたのだ。どうして殖えたのだ?)

窓には硝子板なんてものが一枚も入っていなかった。板で作った戸はあったけれど、閉めてなかった。この窓から、あの蠅が飛びこんできたのに違いない。しかし飛びこんでくるとしても、この夥しい一群の蠅が押しよせるなんて、彼がこの小屋に住むようになった一年この方、いままでに無いことだった。

(なぜ、今日に限って、この夥しい蠅の一群が飛びこんで来たのだ。どこから、この夥しい蠅が来たのだ)

彼の眼は次第に険悪の色を濃くしていった。

どこから来たのだ、この夥しい蠅群は!

「ああッ。――」

と彼は叫んだ。

「この蠅が来るためには、この家の外に、なにか蠅が沢山たかっている物体があるのだ。雨が降って――そして蠅が叩かれ、あわててこの窓から飛びこんできたのだ。