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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

人の本当の幸福は、小慾にあり知足にある」

これが秋元の心持であった。従って伏見桃山の栄華や、聚楽の豪奢に対しても、全くのところ風馬牛であった。

とは云え関白秀次の態度――すなわち兇暴と荒淫との、交響楽じみた態度については、苦々しく思っていた。

「今にあの卿は亡ぼされるであろう」と、人に向かって噂などもした。

そういう秋元の子であった。秋安も閑雅の人物であったが、若いだけに覇気があって、飯篠長威斎の剣法を学び、極意にさえも達していた。

そういう豪族の居間である。

秋安と美しい廻国風の娘と、語り合っているその部屋には、狩野山楽の描いたところの、雌雄孔雀の金屏風が、紙燭の燈火を明るく受けて、さも華やかに輝いている。

「……そういう訳でございまして、妾の父母と申しますものは、秀次公に滅ぼされました、佐々隆行の一族で、相当に栄華にくらしました。でも両親が宗家と共に、城中で切腹いたしまして、妾一人が乳母や下僕に、わずかに守られて城を出てからは、昔の栄華は夢となり、丹波の奥の狩野の庄で、みすぼらしく寂しく暮らしました。その中に親切な乳母も下僕も、この世を去ってしまいましたので、いよいよ妾は一人ぼっちとなり、途方にくれたのでござります。