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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
で、しばらくは無言である。
鼓の音ばかりが聞こえてくる。
が、にわかに鼓の音が、糸でも切ったようにフッと切れた。
これはどうしたことなのであろう? 曲は終わってもいないのに。
しかし向かい合って沈黙して、互いに相手の心持を、探り合っている二人には、にわかに切れた鼓の音に、注意の向かうはずはなかった。そうして、いっそう人の足音が、秋元の居間から幽かに聞こえ、そうして襖が一二度開き、そうして足音が家の中から、庭上へ移ったということなぞに、感付かなかったのは当然と云えよう。
骸を前の新生の恋
とは云え忽ち庭上から、
「何者!」という鋭い声が響き、つづいてアッという悲鳴が起こり、それに引きつづいて乱れた足音が、いくつか聞こえてきた時には、秋安とお紅も感付いた。
素破! と云うような意気込みで、秋安は円座から飛び上ったが、鹿角にかけてあった太刀を握むと、襖をひらいて外へ出た。出た所に縁がある。縁を飛び下りた秋安は、声のした方へ突っ走った。
蒼白い紗布でも張り廻したような、月明の春の夜が広がっている。そういう春の夜の寵児かのように、のびやかな空へ顔を向けて、満開の白い木蓮が、簇々として咲いていたが、その木蓮の花の下に、抜身を引っ下げた一人の武士が、物思わしそうに佇んでいた。