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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
見れば足許に一人の武士が、姿の様子で大方は解る、切られて転がって斃れていた。
秋安はそっちへ走り寄ったが、
「父上、何事でござりますか?」
抜身を引っ下げて佇んでいたのは、秋安の父秋元であった。
「うむ、秋安か、この有様だ」
それから太刀へ拭いをかけ、鞘へソロリと納めたが、
「実はな、音色が変わったのだ」
「は? 音色? 何でございますか?」
「調べていた鼓の音色なのだ。……それが何となく変わったのだ。……そういうことも無いことはない。おおよその楽器というものは、調べる人の心持によって、音色を変化させると共に、四辺の著しい変化によっても、また音色を変えるものだ。……鼓の音色が変わったのだ。で、庭へ出て見たのさ。五六人の武士がいるではないか。で、誰何したというものだ。すると一人が切りかかって来た。で、一刀に切り仆したところ、後の者は一散に逃げてしまった」
死骸へ改めて眼をやったが
「その風俗で大概は知れる。困った奴らがやって来たものだ。何の目的かは知らないが。……其方も用心をするがよい」
花木の間だをくぐるようにして、秋元は静かに歩み去ったが、月光を浴びた背後姿が、ひどく心配のある人のようであった。