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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
「体が汗にぬれている。妾は風呂へ入ることにしよう」
で、お紅は立ち上ったが、念のために部屋の中を見廻してみた。
が、誰も見ていない。
で、そろそろと帯を解いて。一枚々々衣装を脱ぐ、花の蕾が萼から花弁と、――一枚々々、一枚々々と――だんだんほぐれて行くようである。
と、雌蕊が現われた。処女の肉体が一糸も纏わず、白く艶々とむき出されたのである。
余りに清浄であるがために、たとえ誰かが見ていたとしても、何らの邪心さえ起こさなかったであろう。そんなにもお紅の裸体の姿は、清らかで美しいものであった。そうしてお紅のその裸身が、呂宋織りの垂布を左右にひらいて、浴槽の部屋へ消えた後には、脱ぎ捨られた紅紫の衣装が、散った花のように残されていた。
そうしてその頃にはお紅の裸身は、浴槽の中に埋もれていた。例えることが許されるなら、浴槽の中の緑色の湯は、紺碧をなした潮であり、それに埋もれている裸体のお紅は、若い美しい人魚でもあろうか?
まさしく人魚に相違なかった。乳房から上を、潮から乗り出し、肩の上へ黒髪を懸けいている。快く閉ざした眼の瞼の、上気して薄紅く艶めかしいことは! ポッカリと唇を無心にあけて、前歯の一部分を現わしている。