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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
お紅の心へ萌したものは、異性恋しさの心持であった。
その異性の対象は、最初は北畠秋安であった。
「妾…………! 妾を…………!」
で、若々しい健康らしい、秋安の肉体を描いてみた。
「妾はあのお方と約束をした。行末夫婦になりましょうと。……おいで下され! おいで下され! そうして妾を愛撫して下され!」
次第に心が恍惚として来る。全身が鞣めされ麻痺されて来る。処女心が失われようとする。
「ああ妾には誰でもいい」
不健全で好色で惨忍な、秀次の顔が浮かんで来た。
と、秀次に…………甦って来た。ちっとも穢わしく思われない。ちっとも厭らしく思われない。今は全く反対であった。…………希っていた。
だがその次に浮かんで来たのは、不破小四郎の姿であった。
「今直ぐ妾へ来て下さるなら、……………!」
美しくはあったが上品ではなかった。――そういう不破小四郎の顔が、お紅には上品に見えさえした。
「ああ妾はあの人にだって…………!」
寝台がリズミカルに揺れている。
お紅の全身は汗ばんで来た。呼吸が…………。薄衣の下の肉体が…………。
で、この寝部屋の寝台の上に、…………裸形の女は、決してお紅ではないのであった。